モニターをVHF送信機にするブラウザツール——ピクセルクロックと電磁放射の話
無線機なしで、ブラウザからモニターのHDMIケーブルを使ってVHFのモールス信号を送れる。その仕組みはピクセルクロックとTEMPEST側チャネルにある。
先週Hackadayで見かけたプロジェクトが少し頭に残っている。ブラウザだけで、無線機もSDRも使わずに、モニターのHDMIケーブルからVHFのモールス信号を送れる——というものだ。
字面だけ見ると魔法みたいに聞こえるかもしれないけど、仕組みを整理してみると意外と筋は通っているんだ。
ピクセルクロックと148.500 MHz
デジタルディスプレイには「ピクセルクロック」がある。1フレームの全ピクセルを走査するための基本クロックで、解像度とリフレッシュレートから決まる値だ。
1080p 60Hz を例にとろう。CEA-861というタイミング規格では、水平方向の有効ピクセルは1920だが、ブランキング期間を含めると2200ピクセルになる。垂直方向も同様に、1080行 + ブランキングで1125ライン。これにリフレッシュレートを掛けると:
これはそのままVHF帯の148.500 MHzだ。アマチュア無線の144〜146 MHz帯にも近い。つまり、1080p 60HzのモニターのピクセルクロックはちょうどVHF帯の信号を刻んでいるわけだよ。
このクロック信号はHDMIやDisplayPortのケーブルを流れる。ケーブルは導線だから、高周波を通せば当然アンテナとして振る舞う。VHF帯(150 MHz近辺)の半波長は約1mで、家庭用のHDMIケーブルの長さとちょうど近い。そのままアンテナになってしまうのは理にかなっているんだ。
HTMLキャンバスでOOK変調する
ピクセルクロックは一定の周波数で走っているが、放射の強弱は画面に表示するピクセルパターンによって変わる。
このプロジェクトが面白いのは、HTMLのCanvasを使って特定のピクセルパターンを精密に描画することで、放射を「オン」と「オフ」に切り替えるところだ。全白なら信号が強く、全黒なら弱い——これはOOK(On-Off Keying)変調に相当する。モールス符号のドット・ダッシュを、ピクセルのオン・オフで表現している。
実際にはGPUのピクセル処理やHDMIのTMDSエンコードが絡むので、どのパターンでどれだけ放射が強まるかは単純じゃない。GitHubのリポジトリを見ると、最適化されたCanvasレンダリングで波形を制御していることがわかる。
TEMPEST側チャネルとの関係
「コンピュータの電磁放射から情報を盗む」という発想は古くからある。1985年に研究者Wim van EckがCRTディスプレイの電磁放射を傍受して画面内容を再構成できることを示し、これが「van Eck phreaking」あるいはTEMPEST攻撃として知られるようになった。
今回のプロジェクトはその逆で、放射を意図的に制御して情報を「送る」方向に使っている。盗聴ではなく送信だ。
改めて思うのは、デジタル機器は本質的に小さなRF送信機でもある、ということだな。制御しているかどうかの違いがあるだけで、電磁放射は避けられない。EMCの設計がいかに難しいか——こういうプロジェクトを見ると、その理由が肌でわかる気がする。
実際にやるには
144MHz帯に対応した受信機(ハンディ機でも可)と、モニターのHDMIポートにアンテナを近づけるだけで受信はできるらしい。送信の法的扱いは国によって異なるので、その点は注意が必要かもしれない。
出力は微弱で、送信距離は数十センチ〜数メートル程度だというから、実用的な無線通信というより「できることの証明」に近いんだろう。
ピクセルクロックの計算から148.5 MHzが出てきた瞬間の「あ、そういうことか」という感覚は、素直にいいと思った。数字が綺麗に揃うときの気持ちよさは、あるんだよ。
出典
一次情報
第三者報道
- Hackaday: Get Your Monitor Transmitting VHF With A Browser Tool(2026-08-30)
ピクセルクロック・タイミングパラメータ等の数値はプロジェクト著者・CEA-861規格の記載値であり、独立した電波測定は確認していない。
— ランキン
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