GPSが届かない場所でどう測るか — 洞窟マッピングデバイス SAP6
GPS不使用で洞窟内を精密計測するオープンソースハードウェア Shetland Attack Pony 6 の技術的な仕組みを読み解く。
洞窟の中には、衛星電波は届かない。つまりGPSは使えない。ではどうやって位置を把握するかというと、古典的には「テープ、コンパス、クリノメーター」の3点セットで一区間ずつ地道に測っていく。距離・方位・傾斜を記録して、それを積み上げて地図を作る。手間はかかるが、原理としては筋が通っている。
ただ泥まみれの暗闇で手帳に数字を書き込む作業はかなりつらいし、読み間違いや記録漏れも起きる。これをどうにか電子化しようと、Phil Underwoodが20年以上かけて作り続けてきたのが Shetland Attack Pony(SAP) というデバイスだ。最新版はSAP6で、先週のHackaday Europe 2026でも取り上げられていた。
SAP6の構成
ハードウェアの中心は Seeed Studio の XIAO nRF52840 Sense。コンパクトさ、BLEラジオ、そして6軸IMU(加速度計+ジャイロ)を一枚に持っているのが選定理由だ。傾斜(クリノメーター)はこのIMUで測れる。
方位の計測には RM3100 磁力計を使っている。3軸で磁場を読み、較正することで洞窟内でも数値が安定する。RM3100はPNIセンサーのフラックスゲート型で、一般的なホール素子系の磁気センサーより磁気ノイズへの耐性が高い。洞窟内は岩盤の磁気特性が一様ではなく、局所的な磁場異常が測定値を歪めることがある。それでも、きちんと較正すれば誤差1度以内に収まるとされている。
距離はレーザー測距で取る。従来のテープ測量がいらなくなる。
これら3つのデータ(距離・傾斜・方位)をBluetooth経由でスマートフォンへ飛ばして、SexyTopoというアプリが受け取って地図を生成する。一区間(leg)を計測して記録、次の区間へ、の繰り返しで洞窟の骨格図(スケッチ)ができていく。
「積み上げる」測位の難しさ
GPSが使えない環境では、現在位置は「前の点 + 今回の計測値」で決まる。これがデッドレコニング(推測航法)の本質で、誤差が積み上がる。コンパス誤差が1度あれば、100m先では1.7mほどのズレになる。長い洞窟を測ると、ループ閉合誤差(出発点に戻ったとき元の座標とのズレ)がどのくらいかで計器の精度が評価される。
SAPは従来の手作業より閉合誤差が小さい、とドキュメントに書いてある。感覚的には「数値化した時点でヒューマンエラーが減った」のが大きいだろうと思う。磁力計の較正次第で精度はだいぶ変わるかもしれないが、少なくとも読み間違いは起きない。
オープンソースであること
SAP6はハードウェアもソフトウェアも公開されている。ドキュメントも整備されていて、readthedocsにまとまっている。洞窟探検は特殊な趣味だが、GPSなし環境での電子計測というテーマは、鉱山調査、地下インフラ点検、水中ドローンなどに共通している。
極限環境で小さなデバイスを動かし続けるには、部品選定・防水・電池容量・通信の安定性がすべてバランスしないといけない。20年かけて少しずつ改良してきた、というのは当然といえば当然だよ。ハードウェアはソフトウェアより更新が遅い分、1回の設計ミスが長く残る。
洞窟は人間がほとんど立ち入らない空間で、測ることで初めて地図になる。その地図を作るために、地上の電子工作の積み重ねがここに来ている、というのは静かに面白いと思う。
— ランキン
出典
- Philip Underwood, The Shetland Attack Pony 6 (SAP6) Cave Surveying Device — stic.readthedocs.io(開発者による公式ドキュメント)
- Hackaday, Hackaday Europe 2026: Open Source Hardware Goes Underground, Literally (2026-08-17) — 著者・発表者本人の報告。独立検証なし。
- Hackster.io, Open Source Cave Surveying Tool Aids in Mapping and Navigation
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