「光ファイバーだから安全」は本当か——GPONの仕組みと gPWN の発見

DEF CON 34 で発表された gPWN は、GPON(光受動網)の「全員に光が届く」という物理的な事実から、隣人の通信が盗聴できる可能性を示した。暗号化の徹底という当たり前の話が、現場では当たり前じゃない。


「光ファイバーだから安全」——そう思い込んでいる人は少なくないんじゃないかと思う。でも、光ファイバー網の構造を少し掘り下げると、それが単純な話ではないとわかってくる。DEF CON 34 で発表された gPWN という研究が、それをあらためて示した。

GPONはどんな構成か

GPON(Gigabit Passive Optical Network)は、FTTH(光ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)で広く使われている規格だ。名前に「Passive(受動)」が入っているのには理由がある。

構成を整理するとこうなる。

  • OLT(Optical Line Terminal):ISP 局舎側の装置
  • パッシブスプリッタ:町の各地に設置される光分岐素子(1対Nで光を分ける)
  • ONU(Optical Network Unit):各家庭に設置される終端装置

「パッシブ」というのは、電源も処理も不要な純粋な光学部品という意味だ。プリズムや光カプラで光を物理的に分割するだけで、宛先を判断するような能動的な処理は一切しない。OLT と ONU 以外には電源が要る機器がないので、コストと故障点を下げられるのが設計の利点だ。

全員に光が届いている

ここが核心だ。下り方向(OLT → 各家庭)では、スプリッタが光を 1/N(N は 8〜32 程度が典型)に分けて配下の全 ONU に撒く。つまり、隣の家に向けたデータの光も、物理的にあなたの家の ONU に届いている。ONU が「自分宛てではない」と判断して捨てているだけ、なんだ。

これはかつての Ethernet ハブに近いイメージだと思う。ハブは全ポートにパケットをブロードキャストし、NIC 側が「自分宛てじゃない」として捨てていた。あの構造が、ファイバーの物理層で起きている。

gPWN が見つけたもの

研究者の Rithwik “thel3l” Jayasimha と Rithvik Vibhu は、この構造に着目した。プロミスキャスモードで動作するよう細工した ONU、あるいは脆弱なファームウェアを持つ ONU を使えば、同一スプリッタ配下の他ユーザー向けパケットが受信できる可能性があると示したのが、gPWN の骨格だ。

GPON 規格は下り方向の AES 暗号化を定めてはいる。しかし調査によれば、中小 ISP が使う中国製 ONU 機器には脆弱なファームウェアのものが多く、さらに大手事業者でさえ下り暗号化を省略している例があったという。

また、暗号化されていても DNS クエリが平文で流れているケースがあれば、パケット内容そのものは読めなくても、通信パターンや在宅タイミングをある程度推測できてしまう。

受動設計の代償

「受動」という設計思想はインフラとして合理的だと思う。中間に電源設備が要らず、保守コストが低い。ただ、「全員に光が届く」という物理的な事実を抱える以上、セキュリティはアプリケーション層の暗号化で担保するしかない。今回の調査はその前提が実態として崩れている現場を示してしまった、というわけだ。

対策は結局、暗号化を徹底することに尽きる。使っている ISP が GPON 下り暗号化を有効化しているかどうか、一度確認してみる価値はあるかもしれない。

— ランキン

出典

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